家庭教師忘備録

忘れられないバイト経験がある。

それは家庭教師だ。

家庭教師は一対一で生徒さんの家に上がってやるので特に印象に残るのかもしれない。

 

とりわけ印象に残っているのは父子家庭の生徒さんだ。 

家庭教師をつけなくてもいい程なんでもできる中学生の女子だった。

時間は夜の7時くらいから2時間程で週に1〜2回行っていた。

内容は、授業やドリルで理解できないところを集めてもらっておいて、そこを集中的に勉強したり、その日の宿題をやったりしていた。

 

ある日、私は家庭教師の仕事の前に寝坊してしまい、大幅に遅刻することになった。

慌てて本部に連絡すると、生徒さんの家に連絡して、その日の家庭教師が必要かどうか聞いてくださいとのことだった。

家に電話すると中学生の本人が出てくれた。

今日は遅れてしまったことを謝り、そして、時間をずらして今日も家庭教師をするかどうか訪ねた。

生徒さんは、お父さんに連絡して確認してみるとのことで、折り返してくれることになった。

そして、「お父さんは遅くてもいいので、来て欲しいと言っている」と折り返してくれた。

いつもよりだいぶ遅い時間からスタートした。

遅れてしまったことを謝りつつ、いつもより口数は少ないものの進んでいった。

終わりの時間に近づき、だいぶ遅い時間になったが、お父さんは帰って来られない。

聞いていいか迷ったが、お父さんはいつも遅いのかどうか訪ねてみた。

すると週の半分くらいは遅くて、家庭教師のある日は遅いことが多いと話してくれた。

働く父は大変なのだ。

働きながらの子育ては大変なのだ。

 

もう終了時間になるという頃に、お父さんが仕事から帰って来られた。

疲れられているふうなのに、かばんを置くやいなや料理に取り掛かられた。

そして、なんと私のご飯まで作ってくださり、一緒に食べましょうとお誘いいただいた。

料理はかなりの腕前でほんとうに美味しくいただいた。

そしてプライベートなことも話してくださった。

ご飯は毎日作れないけど、なるべく作っていると。 

そして、家庭教師は娘を一人で家においておくのが心配なのでお願いしていると話された。

確かに勉強もできるし、宿題が苦手な感じもない。

ただ週の半分を中学生が家で一人ぼっちで過ごすことを考えると不安があるのは理解できる。

そうだったのか、寂しさや不安を解消しつつ勉強も。

一人で過ごすより、二人のほうが確かに心強く、安心だ。

兄弟が多くて、一人になりたかった私は、ふと一人になると一人が耐えられないことが多かった。

家族はいろいろな形がある。

シングルマザーが大変だという話を聞く度に、このご家庭を思い出す。 

シングルマザーも大変だけど、シングルファーザーも同じく大変なのだ。

 一人で育てる大変さ、仕事しながら育てる大変さをなんとなく感じた。

 

晩御飯の後に、娘さんと一緒にお弁当を作ってから寝るとのことであった。 

娘さんが一人で料理をするのは、火の元などが怖いので、まだお願いしていないと言われていた。

料理は親子で上手な感じを醸し出していた。

娘さんは洗濯やら布団の取り込みやら、掃除など料理以外のことをやって、宿題をして、ゲームをして、テレビを見て、遊びながら、父の帰りを待っていると教えてくれた。

このお家はどの家庭よりもご飯の時間が遅かったのも印象に残っている。

家にはいろいろな事情があることを知った。

その後も、順調に家庭教師は続き、二人でもくもくと勉強をしながら過ごした。

その後、希望の高校に合格し、家庭教師は終了となった。

家庭教師をさせてもらえて、家庭の事情に少しお邪魔させてもらえた経験は貴重なものとなっている。