マグネット屋さん

私の友達の彼氏の話。
私がまだ学生時代だったころ、アパートに泊まりに来てくれた友達がいた。
同じバイトで暇な時に話したりしてるうちに仲良くなって、たまに学校で会って話をしたり。

何より学費や生活費を稼ぐバイトの悩みを共有したりしていた。
その日も何もないアパートに遊びに来てくれた。
何を話したかとか覚えていないけど、ちょっとお酒を飲んでテレビを見たり。
実験の話をしたり、将来の話をしてたのかなぁ。
とにかくストレスなく話せる友達。
翌日は早朝から学校とのことで、寝ている私を残して静かに去っていった。
そんな気を使わない友達。その後も、バイトで話したり、お泊りしたり。

ある日、その友達が付き合うことになった。
そのお相手が同じ大学の学生だけど、マグネット屋さんという異質な職業。
これはマグネット屋さんに失礼だけど、私の中でマグネットだけを売る店というのが想像できていなかった。
だから異質に感じた。
その友達は自分の彼氏のことを話したりするタイプではなかったので、こちらからどんなタイプの方って聞いてみた。
すると先輩であり、マグネット屋さんだと教えてくれた。
マグネット?
そう、マグネット。
あのマグネット?
あのマグネット。
楽しそう!!!
そう、マグネットだらけで楽しいの。
バイトが休みの日に行くね〜

そして、教えてもらったマグネット屋さんに行った。
なんと大型の商業施設の中にマグネットばかりを売るテナントがぽつり。
しかし、立派なマグネット屋さんだった。
ものすごく種類のあるマグネット。
アイスクリームの形から動物、信号、植物、音符、唇、ハート、ドリンク、人形
ニコちゃんマーク、クリスタル、数字、などなど
見だしたら切がないぐらいある。
選ぶのも見るのも楽しい。
夢がいっぱい詰まったマグネット
そんな起業をした友達の彼氏、素敵である。

マグネットはとても楽しいけど、このテナント大丈夫だろうかと勝手に脳裏を何かがかすった
マグネットだけを売る店
マグネット屋さんが大型のスーパーや眼鏡屋、薬屋、歯医者、服屋に混じっている
なんとも不思議な光景だ
でも、どこかで見た景色。

そうだ、ハワイに言った時お土産屋の一角。そういえばカナダにもあったような気がする。
お土産を選びながら、自分用のものも記念に買う。
そんな思い出のマグネット。
でも、友達の彼氏のマグネットの量には敵わなかった。
圧倒的に大量のマグネットを仕入れて売る店。
選び放題の店。

今思えば、大丈夫じゃないだろうとわかる。
でも、その時は、只々欲しくなる楽しいマグネットでいいじゃないかと思ったのかもしれない。
くっつくだけで嬉しくなるマグネット。
プレゼントしたくなるマグネット。
冷蔵庫にペタペタしたいマグネット。
少しずつマグネットは増えていった。

友達の彼氏は学生であり、起業もするというすごい人だった。
どんどんオーナーっぽくなり、繁盛していた。
週末には親子があれこれ楽しそうにマグネットを選んでいる店。
平日の夕方はOLさんが会社に配るのだろうか、30個ほど個包装で買っている。
すごい!マグネットがいろいろな世界に広がっていく。
私も何度か訪れた。
壁一面のマグネットに浸りにいっていた。

しかし、学生生活が終わる頃、マグネット屋はなくなっていた。
そして、友達とも疎遠になりつつあった。
あんなに気を使わなかったのに、バイトをお互いやめたせいなのか、勉強の追い込みに必死だったのか会う回数も減っていった。
マグネット屋さんは大丈夫じゃなかったのかもしれない。
でも、場所を代えて別のところでやっているのかもしれない。

少しずつ記憶からマグネット屋さんは消えてしまった。
でも、ふと思い出すことがある。
お土産でマグネットをもらったとき、
前面にはつけられなくなった冷蔵庫の横にマグネットをつけることのできるスペースを見つけた時、
そして、最高にかわいいマグネットに出会った時、思い出すのだ。
学生にしてマグネット屋さんを起業した先輩。
そして、マグネットを夢中に選ぶ自分。一緒に過ごした友達のことが蘇る。
学生時代に戻りたい。あの不思議な空間に戻りたい。

ちなみに今でもマグネットは大好きである。
一粒一粒のマグネットに詰まっている思い出が大好きである。