学生時代のことである。
実験に使われたジャンガリアンハムスターをもらった。
実験後は実験した学生によって飼われていたが限界があった。
そこで、もらってほしいと。
小さくて、かわいい命。
一人暮らしの私はお世話できるか不安がよぎったが一緒に暮らすことにした。
親元を離れて寂しかったのかもしれない。
ハムスターは元気にケージの中で過ごしていた。
夜にからからと車輪のような運動器具を使って音をたてることがあったが、それもまた可愛かった。
毎日観察し、お水を替えて、餌をあげる。
休みの日には手乗りにして遊んでみたり。
そんな毎日が続いていたが、ある日、学校から帰るとハムスターはケージにいなかった。
なんとも不思議である。
ケージから出てしまわないように、出入り口は洗濯ばさみで止めていたのだが。
少ない家具の後ろを探してみたがいなかった。
部屋は施錠していたので、外に行くとは考えにくい。
何日もハムスターは見つからないままだった。
誰もいなくなったケージ。
待っても待っても見つからない。
そろそろ片付けようか、どうしようか。
そんなある日、炊事場のシンクの下からカサカサと物音がする。
換気扇の音のような、何かが動いているような音。
ピン!ときた。
この音はハムスターではなかろうか。
シンクの下の扉をあけた。
物音は止んだ。
しかし、確かに音がこの辺りからしたのだ。
少しずつ少しずつ調味料のストックをのけて、使っていない鍋をのけていく。
すると逃げていくような音。
よく見るとハムスター!!!!
それも、紙を小さく割いて巣を作っているではないか。
これが本来の家なのか!!!
びっくりする私の側でびっくりするハムスター。
もう逃げ場はない。
そっと捕まえてケージに戻す。
紙で作っていた、小さな巣も一緒にいれる。
しかし、この紙はどこからきたのだろうか。
それからは、いつもケージの中の紙で作った自作の巣の中にいた。
たまに巣から出てくるものの、餌を持って巣に帰っていく。
あの時はハムスターの本当の姿を見た気がする。
ハムスターは暗いところが好きで、小さな住処が好きである。
あの時のハムスターは野生化していて、目がギラギラしていた。
その後、学生生活の間ずっと一緒に過ごしたハムスター。
帰省中も友達に頼んだりして、元気にしていた。
静かな部屋でたまに顔を出してくれるハムスター。
もうすぐ学生が終わるという頃になった。
実家は遠いけれど、ハムスターと一緒に帰ろうと計画していた。
そんな矢先にハムスターは死んでしまった。
3年ほど生きていただろうか。
静かな部屋でカタカタ遊んでくれたハムスター。
私のアパートのシンクの下に自分の住処を見つけたハムスター。
とてもやさしい毛並み。
ちいさな尻尾。
私の学生生活を豊かに彩ってくれたハムちゃん。
ありがとう。
ハムスターは逃げますのでご注意を。